演習(大学院ゼミ)の記録
【文献講読】
Peter J. Bowler and Iwan Rhys Morus, Making Modern Science: A Historical Survey, 2nd ed. Chicago: The University of Chicago Press, 2020.
Chapter 17. Popular Science
本節では、19世紀初頭から20世紀にかけての科学展示と博覧会の発展をたどり、その社会的・文化的役割を論じている。ピールやバーナムは歴史画、古物、発明品を通じて市民の好奇心と娯楽需要に応え、アデレード・ギャラリーや工科大学は理論よりも機械・技術の実演を通じ科学を身近にした。1851年ロンドン万国博覧会は英国の産業・技術力を世界に誇示する転機となり、収益はサウス・ケンジントンの「科学の街」建設や自然史博物館設立に活用された。以降、各国万博は「博覧会の時代」を築き、特に電気の壮大な演出が科学進歩の象徴となった。これらは都市や国家の威信を示す場であり、発明家・科学者・企業の交流や技術標準化、国際会議の舞台ともなった。20世紀以降もこの伝統は受け継がれ、復興や未来像を象徴する展示が行われ、現代の科学館や体験型施設にも影響を与えていると著者は指摘している。
19世紀初めにすでに科学と芸術が一体化する展示が存在したことを興味深く感じる一方、それを含めた科学分野の展示が博物館や万博で知的な娯楽として科学への理解やその技術を大衆に普及するために寄与し、また、その発展を示すことで国力を周知させてきた。それは現在でも同様に続いているように思うが、科学分野の内容は時代性を強く反映するのだとみて取れた。【松山】
【書評紹介】
Moritz von Brescius, German Science in the Age of Empire: Enterprise, Opportunity and the Schlagintweit Brothers. Cambridge: Cambridge University Press, 2019.
Review by Hans Pols, Isis 114 (2023): 668-669.
「ドイツという「非植民地国家」による科学技術の応用」というテーマについて、評者が
- かつて科学が「職業」ではない「(紳士的)趣味」であり、宗主国・植民地という関係性とは違う枠組みの中にあった
- 科学者らは「職業”ではない”」科学を継続して研究・利用していくための資金を「自己演出(パフォーマンス)」によって工面していった
といった記述に着目していたことが興味深かったです。この点より評者は、近代以後の国際社会において、科学技術の発展が各国家の国力の強弱と繋がっていくまでの地盤形成に関する論説として本著書を評価しているのではないかと考えました。【工藤】
【研究発表】
「過渡期にあるメディアが展覧会に与える影響について」
今回の発表では修士論文にて扱うテーマにおける、その研究背景と問題意識について報告しました。過渡期にあるメディアが展覧会に与える影響が関心の中心にありつつも、研究の方向性がなかなか定まらない状況ですが、メディアと展覧会のかかわりをどのような角度から扱うかについて、資料の収集や同タイトルの展覧会の比較、美術番組との連動など様々な視点でゼミ生の皆さんにアドバイスをいただき大変勉強になりました。【田中】