2025年6月9日

演習(大学院ゼミ)の記録

【文献講読】

Peter J. Bowler and Iwan Rhys Morus, Making Modern Science: A Historical Survey, 2nd ed. Chicago: The University of Chicago Press, 2020.

Chapter 17. Popular Science

7パラグラフ分を読みました。

まずパラグラフリーディングのコツは、1パラグラフにつき1主題という論文構造を踏まえて、パラグラフの最初と最後の一文を注意深く読むようにとのアドバイスがありました。

内容は以下の通りです。現代は科学と「ポピュラー」は乖離しているように見えるが、歴史的には科学は文化の一部であった。現在、歴史家たちは科学と大衆文化の関係あるいは境界線を再考しつつあり、そのためには科学の側だけ見るのではなく、大衆科学をさまざまな側面から見る必要がある。その一つに16~17世紀にかけての市民に向けての公開講座が挙げられる。18世紀のイギリスにおいてはその場所はコーヒーハウスで展開された。ここで科学の講演や実験を行う人々はScientistという概念が誕生する以前の存在なのでmen of science と呼ばれる。彼らは派手な演出を伴う科学実験を行い、ヨーロッパ中で聴衆が科学講演会に殺到した。【神村】

【書評紹介】

Thomas J. Misa, Leonardo to the Internet: Technology and Culture from the Renaissance to the Present. 3rd ed. Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2022.

Review by Emanuela Scarpellini, Technology and Culture 64 (2023): 220-221.

今回取り上げた書評は,ルネサンス期からインターネット時代に至るまで,各時代の代表的な技術を考察した書籍について論じたものである.この書籍は,技術を単なる進歩の線形的な歴史や応用科学としてではなく,社会,経済,文化との複雑な相互作用として捉えている.具体的には,商業資本主義,産業革命,帝国主義,第二次産業革命,そして現代のグローバル化の中で,技術が果たした役割を社会的文脈に照らして分析している.

書評では,本書を技術史への重要かつ最新の貢献として高く評価している.ただし,本書で扱われた技術には地域的な偏りが見られるほか,取り上げられていない技術もあるように思われるが,書評ではその点への指摘はなかった.そのため,内容をそのままうのみにするのではなく,視点の偏りや限界にも注意を払う必要があると感じた.【根木】

【研究発表】

「『シン・ウルトラマン』における科学の表象について」

本発表では、『シン・ウルトラマン』(2022)における科学の表象について、STS(科学技術社会論)の視点から分析を試みました。作品において科学技術は「制度」「統治」「外部からの力」として描かれ、初代『ウルトラマン』(1966)に見られる「人類の希望」や「共闘の手段」としての科学とは異なる意味づけがなされていることを、両作の比較を通じて述べました。

質疑応答では、特に「科学の制度化」という表現に対して、学術的背景や使用文脈に関する指摘を受け、今後はより適切な語の選定と精査が必要であると感じました。また、『シン・ウルトラマン』が再構成した元となる初代エピソードの精査も、今後の重要課題と感じました。

今後は、「制度化された科学」というテーマをより深く掘り下げると同時に、本作が参照した初代『ウルトラマン』の五つのエピソードに着目し、再構成の意図や構造を丁寧に読み解いていきたいと考えています。【李】