2022年5月12日

演習(大学院ゼミ)の記録

【書評紹介】

Morris Low, Visualizing Nuclear Power in Japan: A Trip to the Reactor, New York: Palgrave Macmillan, 2020.

「唯一の被爆国である日本は、なぜ原発を受け容れたのか?」という疑問は、日本のみならず世界中で生じる疑問です。著者は「視覚イメージ」の役割に着目し、多様な事例から日本社会の受容過程を描いているようです。そこには、専門家である科学者が発するメッセージも、ある程度影響力を持っていたのではないかと想像しています。【猪鼻】

【専門書講読】

橋本毅彦『描かれた技術 科学のかたち:サイエンス・イコノロジーの世界』(東京大学出版会,2008)より

  • 「天の城」「ビーナスの影」

「天の城」ではティコ・ブラーエの天文学への貢献がみられる。そこでは、特異な現象の発見というよりも定常的な観測活動がメインになっている。このような地道な活動が現代に続く自然科学をかたちづくっていったのだと感じられた。

「ビーナスの影」では金星の太陽面通過という現象に対する人々の苦闘が描かれていた。観測においてできるだけ誤差をなくす、あるいは誤差を認めたうえで処理する方法を考案するという考え方は、日常生活に生きる我々にとってバイアスに対処する方法についても示唆を与えてくれるかもしれない。【佐々木】

【研究発表】

「画像ならではの感情表現」

《要旨》画像は目に見える事物を描写するだけでなく、目には見えない感情を表現することも可能だが、これは音楽などにも共通の特徴だ。しかし、感情表現一般は画像ならではのものではないとしても、画像ならではの感情表現、つまり、画像に特有の仕方で実現される感情表現が存在する可能性はある。本発表の狙いはそれを検討することだ。画像によく見られる感情表現の技法はしばしば画像以外にも見られるが、画像の構造を明確化することで画像ならではの感情表現の存在は浮かび上がる。【村山】