2025年10月6日

演習(大学院ゼミ)の記録

【論文分析】

Nathan Cardon, “Cycling on the Color Line: Race, Technology, and Bicycle Mobilities in the Early Jim Crow South, 1887–1905,” Technology and Culture 62 (2021): 973–1002.

本稿は、19世紀アメリカ南部のジム・クロウにおける白人上位の人種ヒエラルキーの中で、自転車のモビリティの技術が、アフリカ系に対する人種隔離の枠組みを崩そうとする作用と、それを維持する作用を有したという論旨の論文です。当時、アメリカ南部で自転車が安価に入手できるようになり、アフリカ系も自転車に乗るようになりました。アフリカ系にとって、自転車に乗ることはモビリティの自由をあらわし、差別に対抗する行為でした。白人はそれに対し、自転車に関連する法でアフリカ系への締め付けと隔離を強化しました。帝国主義が拡大する時代において、これらはさまざまな国で支配者と被支配者の間にみられた動きだったと筆者は結論づけています。

本論文は、新聞や雑誌、国勢調査などの豊富な一次資料を用いて執筆されています。先生はパスポート申請書類一式も一次資料として参照されていることをご指摘くださいました。論文を執筆する際、導入と結論の間に3章の構成で論証していくという構成は、参考になると思いました。【武笠】

【書評紹介】

Andrew Nahum, Paths of Fire: The Gun and the World It Made. London: Reaktion Books, 2021.

Review by Matthew Hersch, Isis 116 (2025): 596–597.

この書籍は、「銃(砲)」を中心として、科学史上の重要なテーマについて述べられており、7つの章ではニュートンのプリンキピアから、レーガン政権下の弾道ミサイル防衛まで
幅広い時代の事例が取り上げられています。

いわゆる銃器マニア向けの本ではありませんが、科学史上の重要な発明である「銃」について述べられており、科学史の教科書にもふさわしい内容だと、評者は述べています。

個人的には、著者の方が博物館のキュレーターで、軍事が専門ということもあり、ぜひ読んでみたいと思いました。また、書評の表現が非常に秀逸で面白い文章だと思います。【佐々木】

【研究発表】

「「現代科普」時期における中国科学普及の実態」

今回の発表では、修正を加えた修論の構成について紹介しました。これまでネット上の科普のみを事例としていたところに、「科普」テレビ番組の例を加えることで、現代科普時期の特徴をより的確に把握できるようにしました。また、第二章では計量テキスト分析の手法を用いて、テレビ番組「科学に近づく」の内容を分析したことを中心に発表しました。ゼミで計量テキスト分析に関する内容を発表するのは今回が初めてであり、データの収集·処理方法や、対応分析および共起ネットワーク分析について説明しました。さらに、中国の国家権力に関する二次文献を補足するべきとのご指摘をいただき、とても参考になりました。一方で、分析結果が議論を十分に裏付けていないという問題も残っており、今後も改善を続けていきたいと思います。【徐】