2025年9月29日

演習(大学院ゼミ)の記録

【論文分析】

Ernst Homburg, “The Rise of Analytical Chemistry and its Consequences for the Development of the German Chemical Profession (1780–1860)”, Ambix 46 (1999): 1–32.

本稿は、18世紀における化学実践の変容が、職業としての化学者集団の形成にいかなる影響をおよぼしたのかを検討した論文です。とりわけ、ラヴォアジエによる化学の理論的定式化と職業化学者の台頭を同一視する従来の見解に意義を唱え、化学者という職能集団は以下の段階を経て形成されたと論じています:(1)分析化学の進展と実験室の変容、(2)教育機関における専門的カリキュラムの整備、(3)分析精度向上と商業的需要を受けた科学的分析化学と工業の統合。

この論文の主題はドイツにおける化学専門職の形成ですが、これを論じるために、本論では実験室や大学の化学講座、工業といった広範な対象が扱われており、一次文献に加えて大量の二次文献(著者自身の出版物を含む)が参照されていました。当初、私はこの論文を分析化学史の重要文献として知りましたが、これに加え、19世紀の化学教育、化学工業、公衆衛生といったテーマに関心を持つ人にとっても有益な論文であると思いました。【澤井】

【書評紹介】

Matteo Pasquinelli, The Eye of the Master: A Social History of Artificial Intelligence. London: Verso, 2023.

Review by Ginevra Sanvitale, Technology and Culture 65 (2024): 1048-1049.

この書籍は自動化や人工知能(AI)の知能概念を労働との関係から捉え直し,「自動化の労働理論」や「機械知能の労働理論」といった独自の枠組みを提示している.著者はAIが人間の個別的な知能を模倣するのではなく,むしろ集団的労働過程や「一般的知性」を自動化するものであると主張する.

書評では19世紀の産業自動化から1950年代のニューラルネットワーク研究に至るまでの広範な知的系譜を描き出している点が評価されている.さらに,具体的な社会的アクターは描かれるが,彼ら自身の声は出てこず,主役は経済学者や科学者などの専門家の著作であると評している.書評でも指摘されていたが,私としては,実際の社会的なアクターがどのようにAIを扱っていたのか気になるものである.【根木】

【研究発表】

「日米科学技術協力の質的変容」

私の研究発表は、10月17日に神戸で開催される日本国際政治学会で、報告する報告ペーパーを基に行いました。ゼミのみなさまから頂いた質問は、東芝事件との関連や、国務省と外務省ではなく、OSTPと科学技術庁が担当だった場合の交渉実現性について問うものでした。有賀先生からは、科学技術協力を一元化させようとする米国と、関連部局が独自運用し、全体的な管理志向がない日本とのギャップに、リアリティがあるとコメントを頂きました。今後は、外務省と科学技術庁との間で、どのような交渉や話し合いがあったのか、調査することを考えています。【松下】