国際科学技術史会議(ニュージーランド)参加記

ニュージーランドで開かれた第27回国際科学技術史会議(The 27th International Congress of History of Science and Technology)に参加してきました。この国際学会は科学技術史分野の国際組織であるDHST*が主催して4年に1度開かれるもので、私自身がこれに参加するのは12年ぶり2回目です。

* Division for the History of Science and Technology (DHST) of the International Union for the History and Philosophy of Science and Technology (IUHPST)

会期は6/28(土)~7/5(土)となっていましたが、私が参加したのは6/30(月)~7/4(金)のあいだです。余談ながら、日本ではまだ大学の授業期間中ですが、海外では大方、夏休みに入っているらしく、会場となっているオタゴ大学(ニュージーランドで一番最初にできた大学)でも、学生の姿はまばらでした。

今回の会議で、私には主に二つの目的がありました。一つ目は個人で申し込んだ研究発表(Stand-alone Paper)で、戦後日本の流体物理学において物理学者たちがコンピューターを使い始めた経緯とその背景について論じるものです。これまでに国内の複数の学会で発表した内容から少しずつ切り出して、全体として一つのアーギュメントに仕立てました。報告のタイトルは “Physicists Calculating Flow: Isao IMAI, His School, and Early Phases of Computational Fluid Dynamics in Japan” でした。

個人研究発表の様子

発表をおこなったセッションは “Physics I” という名前がつけられていて、私のものを含めて3件の発表があり、ほかの2件は場の量子論とビオ゠サヴァールの法則に関する内容でした。前者はアメリカからのオンライン参加、後者は中国からの対面参加です。座長は日本の橋本毅彦先生でした。過去の国際学会の経験から、Stand-aloneのセッションは参加者が少ないことを予想していたのですが、思った以上に少なかったです。会場にいたのは発表者と座長を含めて10名に満たない数でした。ただ、時間に余裕があった(初期の暫定プログラムでは発表4件の予定だった)こともあり、ディスカッションが盛り上がったのはよかったです。

なお、私が聴講したほかのセッションでも、出席者が20名を超えるようなものはありませんでした。一つの理由は、並行しておこなわれるセッションの数が極めて多く、どの時間帯にも20件を超える数のセッションが組まれていたことにあります。加えて、今回の国際会議は(驚くべきことに)完全ハイブリッド方式で運営されていて、体感としては発表者の半分近くがオンライン参加でした。開催地がニュージーランドだということもあり、そもそも現地参加者の数がそこまで多くなかったのだろうと思います。

これと関連して、会議運営に関して私が最も不満だったことは、プログラム上、発表者が対面参加なのかオンライン参加なのか分からないという点でした。国際会議の重要な意義の一つは人と知り合うことにあると思うのですが、面白そうな発表だと思って会場に行ってみたらオンライン参加だったのでお話しできなかった、という例がいくつかありました。逆に、日本人の発表者がプログラム上は沢山いたのですが、ほとんどはオンライン参加であろうと予想していたところ、思いのほか多くの人が現地にいて驚いた、ということもありました。

話を自分のことに戻すと、今回のもう一つの目的は、自分が企画したシンポジウムの開催でした。これは “Challenges in Exhibiting the History of Science, Technology, and Medicine at Museums: East Asia in Focus” という題名で、7/2(水)の2つのセッションを使って実施しました。私自身は座長を務めたほかに、橋本雄太氏(国立歴史民俗博物館)と共同で、Wi-Fiを通じたデジタル技術によって博物館展示を拡張する可能性について話題提供をしました。

このシンポジウムはタイトル通り、特に東アジア地域を対象にして、博物館で科学技術史を展示する上での具体的課題を取り上げたものです。博物館に勤めている、あるいは関わっている日中韓米の科学/技術史研究者が集まり、話題提供とディスカッションをおこないました。当初は計8件のプレゼンテーションを予定していたのですが、最終的には日本から2件(対面とオンライン)、中国から1件(対面)、韓国から2件(対面とオンライン)、米国から1件(オンライン)の、計6件となりました。私は両セッションを通じてずっと座長をしていたので、さすがに疲れました……が、どちらにおいても30分以上のディスカッションができ、とても充実した内容になったと思います。何より、このような形で日中韓(そしてアメリカ)の科学博物館関係者が集まって話をする機会を作れたのは、わりと画期的なことだったのではないかと感じています。

以上が今回のメインイベントでしたが、他のセッションを聴講したり、他国の研究者の方と話したりといったこともしました(ただしそのほかに、当地の博物館を見学したり、資料調査をしたりもしていたので、ずっと学会に出ていたわけではないのですが)。なかでも4, 5名の方とは、短い時間の中で今後につながりそうな話ができてよかったです。

1週間以上も海外に行くというのが大変久しぶりで(最後は確か10年くらい前)、かつ今年の4~6月は頻繁に体調を崩していたこともあり、とにかく不安だったのですが、結果的には充実した海外出張になりました。ただ同時に、家を空けて出張する期間としてはちょっと長すぎたという感覚が否めません。以前はそういうふうには思わなかったのですが、海外出張は願わくはもう少し近いところで、4, 5日で行って帰ってきたい、と思いました。贅沢な悩みであるとは思いますが……。