2025年5月26日

演習(大学院ゼミ)の記録

【文献講読】

ラヴワジエ『化学原論』(科学の名著)朝日出版社,1988年.

第1部第1章 カロリックの結合と空気状弾性流体の生成について[続]

『化学原論』を読む最終回でした。該当箇所(pp.28-30)では、あらゆる物体の粒子が引力と斥力(カロリックが粒子を引き離そうとする力)との平衡状態に置かれていることや、私たちが感覚する熱がカロリックの移動によってもたらされていることなどが論じられていました。ゼミでは、ラヴォアジエが熱物質と熱の移動説のどちらに属していたのか、この著作がどのような読者層を想定していたのか、などの点について議論しました。いずれもすぐには結論が出ませんでしたが、こうした古典的著作でも時間をかけて読むことで様々な論点が出てくることがおもしろいと思いました。また付録の実験器具の図を作成したのは妻マリー・アンヌであるという話題もありましたが、こうした点も含めて、ラヴォアジエがどのようなスタイル(分業制?)で研究・執筆活動をしていたのか興味を持ちました。【澤井】

【書評紹介】

Emma Bedor Hiland, Therapy Tech: The Digital Transformation of Mental Healthcare. Minneapolis: University of Minnesota Press, 2021.

Review by Ariane Hanemaayer, Isis 114 (2023): 231-232.

著書『Therapy Tech』は、コロナ禍以降注目されるメンタルヘルスのデジタル化を批判的に分析した書籍である。開発者インタビュー、業界イベントでのフィールドワーク、「7 Cups of Tea」での参与観察を通じ、AIチャットボットや心理監視、遠隔セラピー等の課題を考察。著者は、これらの技術が公平な支援ではなく、むしろ既存の格差や自己責任論を再生産していると指摘する。

評者は、本書がコロナ禍以降のメンタルヘルス状況や公平性の問題に示唆を与えると評価。一方、各章間の繋がりの弱さを指摘している。またFDA規制外の心理支援技術のリスクや、AIの訓練における文化的配慮不足を問題視し、批判理論的な視点から概念・理論の詳細な分析を求めている。【卞】

【研究発表】

「個人制作CGアニメーション史 1985-2002」

今回の報告では、修士論文の執筆途中で「個人制作CGアニメーション史」という新しい切り口に思い至った経緯を発表しました。質疑応答の時間には、その研究対象期間の終わりを新海誠監督『ほしのこえ』(2002年、コミックス・ウェーブ・フィルム制作)とするのではなく、GPUが初めて発売された1999年とするのが区切りがよいのではないかといった意見や、実際にアニメーション史を研究していく際の史資料の入手可能性および解読にかかる時間をどう見積っているのかといった質問まで幅広くいただき、漠然と思い浮かべていた研究計画がかなり明確になりました。今後は資料を集めるために具体的な行動を起こすフェーズに入るので、あらためて身が引き締まる思いがしています。【天野】