2022年7月7日

演習(大学院ゼミ)の記録

【書評紹介】

Bruno J. Strasser, Collecting Experiments: Making Big Data Biology. Chicago: University of Chicago Press, 2019.

Review by Mary F. E. Ebeling, Isis 111 (2020): 440-441.

生物学を分析対象にコレクションの起源から現代のビッグデータの隆盛までを論じる文献の書評。収集と実験の分業と協業、データ駆動型の研究の成り立ちを豊富な資料を持って描いている。とくに本書では、ビッグデータもひとつのコレクションと定義しているところが特色といえるだろう。これにより、現代のビッグデータ隆盛の生物学とそれ以前の生物学を一貫した観点から論じることを可能にしている。【佐々木】

【専門書講読】

ロレイン・ダストン&ピーター・ギャリソン『客観性』(名古屋大学出版会,2021年)より

「第6章 訓練された判断」

本章では、機械的客観性を目指して得られた図像が、読者を訓練するという目的に対して役に立たないという不満から、図像作成において「訓練された」科学者の「判断」(主観)が用いられるようになったアトラスが扱われます。科学者の「無意識的かつ直観的な科学的自己」、すなわち主観性が重要視されることになる一方で、ここで科学者らが目指したアトラスの持つ客観性とは、第5章で議論された「構造的客観性」なのではないか、というのが私の感想です。以下、ゼミでの議論後に考えたことを2点補足します。①本性への忠誠が目指したものが原型や真、機械的客観性が目指したものが自動的に作られた図像そのものだとすると、訓練された判断が目指したものは構造だったのではないか。②フレーゲが言うように超越論的に存在する構造的客観性に対し、第6章の実践は、あくまで経験的に構造的客観性を得るという営みになっていたと読めるのではないか。第7章で、どのように本書の内容がまとめられるのか、楽しみです。【猪鼻】

【研究発表】

「19世紀化学史とカールスルーエ国際会議」

《要旨》発表者の現在の関心は1860年に行われた世界初の国際会議、カールスルーエ化学者国際会議にある。本発表では、前半にて19世紀化学史を概観し、後半ではカールスルーエ国際会議の概要、加えて修士論文における問いや今後の課題について整理した。

《コメント》発表後に様々なコメントを頂きました。科学哲学の知見を取り入れてはどうか、また会議自体の構成やそれらを執り行う順番について考察してはどうか…などなど。こうしたコメントを踏まえても、会議のもつ地理的な面白さ、社会史的な意義、学説史的な側面など、色々と考えることがありそうだなと感じています。一人では思い至らなかった点を色々と指摘して頂き、参加者の方々もどうもありがとうございました。【澤井】